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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

祖父江流造本術

10 祖父江慎

ブックデザインの世界で今もっとも強烈な光を放つ、祖父江慎氏。“書店の棚で異彩を放つ”“造本の定法からの軽妙な逸脱”など評される氏の仕事の根底にあったのは、実は本を作ることへの底深い「愛」であった。その言葉の端々からは、控えめでありながら本とその世界への熱い思いが溢れでてくる。本とその世界への愛を語る、祖父江慎氏の造本術を聞く。

第1話 「テキストや言葉に形を与える喜び」

 2月に刊行された『言いまつがい』は、本の四隅が90度ではなくいびつに歪んでいるなど、これほどセオリーから離れるというのは、これまで誰もやったことがないような気がします。どうして可能だったのでしょうか。

 それは、きっとスポンサーの糸井重里さんが太っ腹だったからできたんですよ。
 本のかどが直角でないのって、取次に嫌われるんです。取次の人から「真四角でないと、詰め物をしないといけなくなる。梱包に手間がかかるのでやめてくれ」っていわれるんです。出版社って取次にはすごく弱いんです。
『言いまつがい』は、当初ネットだけで販売する予定だったんです。それで糸井さんから「流通のことは、あまり気にしすぎなくていい」って言われたんです。結局、書店でも扱ってくれることになったんですけど。
 バーコードにしても、なぜあんな位置や色に決めたのかっていうと、考えなくてすむからなんです。本作りの仕事に携わっているにもかかわらず、こういう喜びのない作業に徹していられるのは本当に不思議です。
 CD-ROMや電子出版の時代がきたときに、「紙に印刷した本はなくなってしまうかもしれない」なんて騒がれたこともあったけれど、そんなことないですよね。むしろそんな時代になってこそ「モノ」としての本の必要性がでてきましたよね。だって、本には、大きさも形もありますし、硬さや柔らかさ、匂い、手触りなどがあるんですもの。
 メールやネット上の情報など、読む側の装置によって形を変えるテキストの量は膨大なものです。テキストは、形を持たないまま亡霊のように浮遊しています。文字も絵も写真も、落ちついていられる場所を持つこと。「本」というのは、そういう場所なのだって思います。そしてブックデザインとは、そんな場所を用意していく作業だと思っているんですよ。

 『言いまつがい』は、ネットで読んだときよりも本の形になったほうが爆笑できました。余白の部分を活かしたレイアウトも、効いていると感じましたが。

 僕はレイアウトのとき余白をどう活かすか、っていうところから入ります。デザインをやりはじめて間もない人の仕事って、窮屈に感じることがありますよね。それは、やりはじめの人ほど安全策をとってしまうからなんです。バランスを考えすぎてきちんと配置してしまう。だけど、バランスのよい配置にむかえばむかうほど、実は外部を遮断し、コミュニケーションを拒否する形になっていってしまうんです。
 閉じられた世界内でなりたつ美しさは、ファンタジーなどそれが似合う内容もあるけれど、ふつう、パーフェクトでない配置のほうが誌面はいきいきするんです。そんな意味でも余白は大切です。

 そういう意味では吉田戦車氏の『伝染るんです。』が、極め付きですね。本が壊れるストーリーが造本デザインになっていますが。

 あのプランでは、吉田さんの「なにかうまくいかないくすぐったさ」を形にできないかなって思って、各巻ごとに本ができるまでの物語を作ったんです。製品が完全に管理化された今となっては、乱丁本にあたったときって、なんだか嬉しいものです。
 第1巻は、素人で不器用な人ががんばって本を作ったという設定です。デザインも編集も文字印字も印刷も製本もことごとく素人で、あらゆるところで可能な限り、失敗をしています。今では絶対に起こりえないトラブルの結晶です。
 第2巻では、1巻のミスをみかねてデザイナー交代です。クレジットは、1巻めの素人デザイナー祖父江慎の父、寛一ということになってます。息子の過ちを正さなければということばかりに考えがいって、2巻めだということを忘れています。
 第3巻めでやっとプロの登場です。ここでのトラブルといえば、デザイン・編集・印刷まで注意深く進んだため、そこまでは問題なかったんですが、最後の製本で時間がなくなってしまいます。見返しや表紙が本文として製本され、表紙には本文ページが貼られてます。
 第4巻は過去の反省もあり、小学館のエリート、学年誌のスタッフが作った本、という設定です。カラーページも付録も芸能人も満載です。このサービス過剰というのが、実は5巻めへの伏線だったんです。
 第5巻めで準備していたストーリーは、4巻めで予算を使いすぎ、しかも連載終了の時期を間違えてしまったというものです。あまりに半端で薄っぺらくチープな最終巻。
 でも、小学館ってすごいですよね。乱丁本、っていう企画が通ったときには、驚きました。本作りには、いろんな人がかかわってきますから、本のデザインって、デザイナーだけで終わることはできないんです。多くの人との合意が成りたたないと先に進めない。そこがまた魅力ですよね。

 京極夏彦氏の『どすこい(仮)』も、読者に強烈な印象を与えますね。

 これは、ムダに邪魔である、ってことに気を使いました。並ぶ本との違和感を出すために、カバーにはネチャネチャしたバーコ印刷で汗を印刷して、見返しから扉までの用紙は、皮膚のような感じにしてます。本文用紙は、集英社で使える用紙のなかで一番かさ高の紙を使ってます。
 本文用紙って、各メーカーからたくさんの種類出てるんです。癖のある紙は魅力的だからつい使ってしまうんだけど、そういう紙に限ってすぐに製造中止になってしまう。出版社もすぐになくなりそうかもってだけで極力使わなくなる。だからどんどん同じような紙ばかりになってしまうんですよね。
 京極さんのファンには活字好きな人が多くて、ビッチリ文字だらけな字面が好まれるんですよ。でも『どすこい(仮)』は、本文の組み方もあえてゆるゆるで無駄に広い行間にしてあります。予想どおり京極ファンの方にはこの組版は異質で不評でした。でも、ひそかにしめしめ大成功って思ってます(笑)。

祖父江慎
1959年愛知県生まれ。
79年多摩美術大学グラフィックデザイン科入学。81 年工作舎でアルバイトをはじめ、やがて多摩美中退。
87年同社退社、秋元康氏が設立した出版社で一年間ADを務め、88年フリーランスとなる。
90 年コズフィッシュ設立、93年法人化、代表に。書籍デザインを中心に、広告、グッズデザイン等の仕事を行い現在にいたる。
83年第4回日本グラフィック展入選。95年度造本装幀コンクール展日本書籍出版協会理事長賞受賞。97年講談社文化賞ブックデザイン部門受賞。2004年造本装幀コンクール文部科学大臣賞受賞。

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