TOPPAN 凸版印刷株式会社

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CREATOR’S FILE クリエーターズファイルトップクリエーターに、仕事や考え方について伺います

デザインが世界に果たせることとは、なにか

12 織咲誠氏

アートとデザイン、グラフィックとプロダクト。さまざまな領域を縦横に横断して制作する織咲誠氏。デザイン界においては独特(ユニーク)ともいえる立ち位置(ポジション)で、ワン&オンリーな活動を続けている。そのバックグラウンドにはどのような思想があるのか、お聞きした。

第1話 「“より少ないものでより多く”を実践する」

経済至上主義への疑問

 グラフィックデザインもアートも、どちらも、単純な自己表出であったり、根底で貨幣価値を追求するだけだったり、そういうところは自分からすると原点が違うんじゃないかと、違和感を感じていました。『出発と最終の目的』── 自分としては常にそこが気になる。
 つまり、アートにしろデザインにしろ、そのベースにあるのは、消費が前提になっている経済至上主義で、そこがそもそも間違っているのではないかと思っていたし、この価値観の中で活動していくのは、活動自体が悪だと考えてしまったわけです。
 自分の身の処し方というのを常に考えていました。《叡知を積み上げるクリエイティブ》とはどんなものか、自分に何ができるのかと思索してきました。

『Hole Works(ホールワークス)』──アートからデザインへ

 幼少の頃に初めて美意識を感じたのはイサム・ノグチの「あかり」です。ひとつのプロダクトとして、アート作品として、素晴らしいデザインであることはもちろん、自然保護という側面、地場産業を復興させるという経済的な側面、東洋と西洋の融合など、いろいろなものに対する回答になっていると思ったのです。
 そのイサム・ノグチの親友だった人で、僕がもっとも敬愛するバックミンスター・フラーの言葉で「より少ないものでより多く」というものがあります。エネルギー的にも物質的にも、少ないものを使いながら徹底的に効率を追求し、地球全体の環境問題に処していくということで、宇宙の理にかなった人類の行いを説いた言葉です。
 これは概念としては容易に理解できるけれど、実践するのは実に難しい。でも、なんとかしたくて自分なりに反芻しながらできたものが「ホールワークス」というアートシリーズです。

“共存・協調・共栄”を実現する“リンク”

 世界にはいろいろな問題があって、けれど「蜘蛛の糸」の話ではないけれど、みんなが「全体の利益」を考えながら、やる気になればなんとかできる、世界を良く変えていけるという意識と、フラーの言葉がすごく共振しました。ここにこそものを作る意味が、デザインが存在する必然性があるのではないかと思いました。
 そこで出てきたキーワードが“共存・協調・共栄”ということで、これを図版化すると、そのままインターネットの概念図にあてはまります。
 この図(*1)は、もともとはアメリカ軍が組織の末端まで指揮通信系統を維持させるにはどうしたらいいかという研究から生まれたものです。どこにも中心がなく、すべてがすべてと繋がっていて、パラレルで、自律的という概念ですね。つまり“結びつき”とか“リンク”ということになるわけですが、この図が主張している概念は、いつも自分のクリエイティブの原点にあるのです。

関係性を生み出す“線”

 「より少ないものでより多く」という考え方を具現化できた最初のプロダクトが、原研哉さんが「リデザイン展」(*2)を企画されたときに、僕の回答として提示した紙皿です。
 従来の紙皿には構造を強くするためにリブが入っていますが、このリブ周りをよく見るとシワになっているんですね。このシワは僕に言わせると「おまえは黙っていろよ」と沈黙を強制する理不尽な権力の証なんです。
 力と力が拮抗したところには必ずシワができます。ということは、シワがない状態というのは調和がとれていると考えたわけです。どこにもストレスがない状態ですね。この着想を紙皿に再現したのです。
 無理がなく不自然なシワをださない《機能を生み出す線》をとらえるために、ひたすらに線の整理をしていったら、こういう紙皿になったのです。
 この紙皿、原形は丸い紙にコンパスで曲線を2本ひいただけです。そこから先は、自分がこうしたいというアイディアスケッチを描いたところで、自然の振る舞いというのはそのとおりになってくれません。
 自然の力を合気道のようにうまく利用していくことで、この紙皿は成立しているのです。
 自然の理にかなったものを作ろうとした時には、自己表現的な作為やおもしろさとかパロディなどという小賢しい概念はまったく通用しません。
 ではどうすればいいのかというと、ひたすら観察するしかないのです。そして自然やものの道理の声に耳を傾ける謙虚な態度が必要です。
 この紙皿ができたときに、「関係性=線」という発想の定理が生まれました。この紙皿と、手、お箸、グラスのそれぞれの間には、直接には何の関係もありませんが、それを結びつける接点というのは、線のひき方で生まれたわけです。そこで「線は関係性であり、関係性を見ることがデザインだ」という公式ができたんですね。
 この紙皿はほぼ偶然できたといってもいいものです。僕はひたすら紙をまるめていただけで、デザインをしたというよりも、デザインさせられたというほうが正確だと思うのですが、でも、線を整理することで関係性を生み出すことができると理解できたことで「線の引き方次第で世界が変わる」という、ラインワークスの核となる言葉を作ったのです。

*1:“On Distributed Communications” Paul Baran
http://www.rand.org/publications/RM/RM3420/index.html

*2:TAKEO PAPER SHOW 2000「RE DESIGN─日常の21世紀」 主催:株式会社竹尾 企画/構成:原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所

織咲誠
インターデザインアーティスト 1965年生まれ。89年桑沢デザイン研究所卒。アートディレクター奥村靫正氏(THE STUDIO TOKYO JAPAN)に師事・勤務、後フリー。
アートと各分野のデザイン領域を行き来しながら、一つの分野からのアプローチでは解決しにくい問題をクリアするための方法を探る修業をしている。「マルチ」ではなく「トータルなもの──“結びつき”」を探求している。97年に渡欧。英国ハビタにて98〜99年「Hole Works」の個展を開催。“みるという事”の思索のかたち『Hole Works』シリーズに加え、“結びつき”の関係を『Line Works』シリーズとして、新世紀より展開。そのなかから生まれたプロダクトは現在、世界で注目されつつ、各国の展覧会に招待されている。

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