GA info. 印刷表現を追求するクリエーターのために by Graphic Arts Center, Toppan
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デザイナー、アーティスト活動とともに、デジタル・メディアの研究者としても知られる、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ準教授・前田ジョン氏。子供のころから「親友」として一緒に育ったコンピュータと、サイエンスやグラフィックデザインへの融合について研究を続けた。やがてデザイナーやアーティストといった枠を超えて、大きな視野からみたクリエイティブとは何かを問う前田氏のお話を伺った。
ぼくがマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学した1984年頃に、ちょうどコンピュータのグラフィックブームが始まり、プログラミングへの需要が高まっていました。ぼくはMITでコンピュータ技能をマスターするとともに、ユーザー・インターフェイスのデザイナーになろうと考えていました。その後、MITの大学院時代に偶然、図書館でポール・ランドの『Thoughts on Design』という本に巡り合います。ランドの空間を操る力と、淡々とした文の明快さに感銘を受けて、コンピュータにとらわれる必要のない、グラフィック・デザインに取り組もうと決心しました。
2000年の『MAEDA@MEDIA』という本を出すまでのぼくの活動は、一般的な人が考えているコンピュータやプログラミングへの理解を解体する試みだったと言えます。コンピュータという一見限りない能力をもったマシンを、いかに堕落させずに、自然な状態で存在させていくか。こうした問題への答えの探索が、ぼくがやってきたコンピュータ・グラフィックス活動でのさまざまな試みだったと思います。
でも、『MAEDA@MEDIA』を制作する過程で、自分は生まれ変わらなければならないと思うようになりました。現在のぼくは、もうコンピュータやプログラミングに関心がなくなり、違うことを考えたいと思っています。
もともとぼくは、アートやデザインに縁のない環境で育ちました。父親は豆腐屋で、子供の教育のことばかり考えていた人。家の近くにボーイング社があったので、小さい頃から、「ハーバード」か「MIT」に入って、エンジニアになるように繰り返し言われ続けていたので、一生懸命に勉強をしてMITの工学部に入学したわけです。
コンピュータは、子供の頃から親友のような存在でした。最初にプログラミングしたのが、豆腐屋のための簡単な会計ソフトでした。MITに入学した頃、ちょうどコンピュータがグラフィック機能を持ち始め、アイコンが流行りだしていました。コンピュータとお絵描きはお手の物だったこともあり、ユーザー・インターフェイスのデザイナーを目指そうと思ったわけです。
大学院に進んでから、メディアラボの博士課程に変更しました。でもその頃のメディアラボは、アートとかデザインに力を入れていませんでした。
ちょうどその頃、コンピュータ・グラフィックスの開拓者でもあった、故ミシェル・クーパー先生が、ヴィジュアルアートをやりたかったら芸術大学に行きなさいと助言をしてくれました。それでぼくは、デザイナーとしてやり直すために日本に向かいました。日本では、コンピュータ環境のない芸術大学で、ゴタゴタした機械から解放され、本来の自分と、紙、そしてペンの世界を取り戻すことができました。
先輩や先生、周囲の人に恵まれていたと思います。憧れのポール・ランドに初めて会ったときも、たまたまアシスタントがいなくて、ぼくが一日中アシスタントをやることになりました。ポール・ランドの最後の本を作っている時で、その本の最後のページ作りを手伝いました。ポール・ランドの最初で最後のレクチャーを、MITで開催することもできました。その後、ポール・ランドをMITに迎えようとしましたが、承諾の返事をいただいた数日後に亡くなってしまいました。夢のような出会いであり、別れでした。
ぼくは最初から、デザイナーとか、アーティストとかを目指していたわけではありません。デザイナーとして評価されるようになったのも、周囲のオーディエンスが面白がってくれたお陰だし、良き先生に恵まれたからだと思います。
現在、コンピュータをヴィジュアル開拓者のためのツールとしてより良いものにしていく役割は、ソフトウェア大手企業の手に委ねられています。その結果、オペレーティング・システムなどのソフトウェアには、数少ない選択肢しか存在しません。コーヒーカップのような日用品には、多種多様な商品があります。その中には使い物にならない物もあるかもしれません。しかし一方で、素晴らしい物に出会えたりすることもあります。量から質が生れることもあるのです。その質が生れるためには、自分のビジョンを提供して、コンピュータの将来を示すヴィジュアル思想家がもっと出現しなければならないと思っています。
ぼくは最後に良い人が勝つ、という勧善懲悪の世界を信じていました。だから、正しいと思って闘っていれば、いつかは必ず勝つと思っていました。でも、メディアラボの副所長をしていた頃に、現代社会は違うと気がつきました。そこで、アンビション(野心)を抱いて闘うのではなくて、別な道があるのではないかと思い始めました。考え方が変わり、競争や戦いはもういいと。人間の素晴らしさは、別のところにあるのではないかと思うようになりました。
だからいまは、コンピュータとか、プログラミングよりも、世の中を豊かな社会にするにはどうしたら良いか、ということに関心があります。
前田ジョン
マサチューセッツ工科大学(MIT)
メディアラボ メディア・アート&サイエンス 教授
著書に「MAEDA@MEDIA 」「Design By Numbers―デジタル・メディアのデザイン技法」受賞多数。
東京、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、パリなどで個展を開催
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