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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

名久井直子「本は言葉を乗せる舟 装丁は舟をつくる仕事です」

35 名久井直子

第1話「本との出会い、装丁との出会い」

―本との出会いは?

 本は幼い頃から大好きで、今でも覚えているのは『昭和文学全集』に出会った時のことです。届いた本は箱入りで、天に金が引かれた分厚い丸背のものでした。新しい本は頁をめくるとペラーッと天金の離れる音がして、それがなんとも言えず嬉しくて。初めて本を「きれいだな」と思った瞬間でした。菊地信義さんの装丁でした。
 もうひとつ記憶に残っているのが、中学2年のときに買った漫画『伝染るんです。』です。まるでブックデザインが内容に食い込んでいるかのように、コンテンツの一部になっていました。「うわぁ〜っ!!」と感動して奥付を見たら祖父江慎さんの仕事だったんです。

昭和文学全集(装丁:菊地信義/小学館/1987年)

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―それが装丁との初めての出会い?

 今になって思えばそうなのでしょうが、その時にはただただ「きれいだな」「すごいな」と見ていましたね。それに将来は数学者になるつもりだったんです。でも、数学にはアーティスティックな側面があると考えていた私は、数学を勉強する前にまずは美大でアートの勉強をしてみようと思いました。でも、美大に入ってから何をやったらいいかまったくわからなくて。ただ、ダイヤグラムの授業だけは大好きでしたね。就職活動でも格別ブックデザインを希望することもなく、外資系の広告代理店に入りました。その年は出版社内の装丁室の新入社員募集がなかったのが残念でした。

―装丁の道へ転身することになったきっかけは?

 入社して4年目くらいだったか、通勤途中の渋谷駅で自分が関わった巨大な広告が目に飛び込んできたんです。そのとき、ふと思いました。心身ともにヘタヘタになりながらつくったポスターが街中にドーンと貼られているけれど、1週間後には何もなかったかのように消えていく。「このポスターはいったい誰に届いているんだろう」って。
 短歌仲間から自費出版の歌集『ガーデニア・ガーデン』の装丁を頼まれたのは、そんな気持ちを持っている時でした。「自分らしい本にしたい」という友人の気持ちに応えたいと引き受けたものの、上製本の入稿の仕方もわからないし、クォークのような編集ソフトも持っていませんでした。それでも毎日、会社の仕事が終わってから真夜中に、イラストレーターで2頁ずつファイルをつくり、かなだけ手動でQ数を変えたりして、3ヵ月かけて仕上げました。このとき、なにより嬉しかったのは、自分が誰に向けて仕事をしているのかが見えたことです。自分が手がけたものを物質として誰かが持っていてくれる、実際に手に取ってくれる人がいるのだと。相手の顔が見えにくい広告とは真逆の世界がそこにあると感じました。

『ガーデニア・ガーデン』(著:錦見映理子/本阿弥書店/2003年)
名久井さんの装丁第一作。
表紙は凹凸のあるプリマ。オペ―クホワイトとスミの2色印刷。本文は平仮名のみ級数を下げて変化をつけている。

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 それからしばらくして、『ガーデニア・ガーデン』を見た大手出版社の編集者から、「本の仕事をやってみませんか?」と声をかけられ、仕事をいただくようになりました。会社の仕事とは別に装丁をぽつぽつと手掛けるうちに、徐々に「この仕事でやっていきたい」と思うようになったのです。会社を辞めて独立したのは、それから2年後のことでした。

名久井直子
ブックデザイナー
1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。
第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。主な仕事に、『愛の夢とか』(川上未映子)、『夜また夜の深い夜』(桐野夏生)、『まばたき』(穂村弘 作・酒井駒子 絵)、『宇野亞喜良クロニクル』など。

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